カムチューナーのすすめ!!
Cam D-Tuner For Banjo
ムーンシャイナー誌2020年7月号掲載 完全版
(はじめに)
遡ること30数年前、僕は1本のバンジョーを購入しました。
1968 VEGA Earl Scruggs Model
購入時は$800で1ドル=90円の頃。最初からカムチューナーは付いてなくて、穴埋めがされていました。
その後知人に譲ったのですが、10数年後に手元に戻ってきました。
それからさらに10数年、有名なレコキンさんがカムチューナーにハマりだしたことは一部の皆さんはご存知だと思います。
(レコキンさんHP参照)
http://recokin104.web.fc2.com/banjo_11.htm
その頃たまたま、ヤフーオークションでカムチューナーの付いた古いカスガのバンジョーを3000円で落札しました。そのカムチューナーは、クルーソンタイプで(クルーソンと思っていたが、つい最近それが大橋産業の作ったコピー商品であることを知る。)元々穴の空いていた跡のあるVEGAのバンジョーへの装着に、さほど勇気はいりませんでした。しかし、このことこそが今も続いているカムチューナー地獄の始まりだったようです。
カムチューナーの歴史
(アールスクラッグスについて)
チューナーを使った代表曲といえばEarl’s Breakdownという人も少なくないと思います!Earl’s Breakdownの録音は1951年10月24日
アールスクラッグス(以後アール)が初めて自分でカムチューナーを作ったとされるのが1952年なので、Earl’s
Breakdownはカムチューナーではなく、手回しだったと言われてます。そのアールが最初に作ったとされているカムチューナーがアールスクラッグスセンターに展示されています。
これが、多分世界で最初のバンジョー用カムDチューナーなんでしょう。
このチューナーでの最初の録音はFlint Hill Special 1952/11/9 嬉しかったんでしょうね!使いまくってます。
次がFoggy
Mountain Chimes 1953/8/29
それから約2年後Randy Lynn Rag 1955/9/3
いずれもアールの代表的なチューナーを使うインストですが、これは全て自作のチューナーで録音されました。ただこの頃はペグヘッドのチューナ部分にブリキのケース(床用ワックスの箱)をかぶせてあって、このチューナーが露出している写真を見たことはありませんので、全て推測です。1957年頃までは、このチューナーを使っていたと思います。
アールが2回目につけたカムチューナーはWalter Pittman製だと思われます。1958年頃
基本的なデザインはアールの教則本に書いてある通りのものなんですが、それを具現化したのか、ピットマンが作ったものをアール(ビルキース)が教則本に書いたのか、はたまた、全然別の人の
アイデアなのかは不明ですが、このタイプはこの後クルーソンタイプとして50年代ギブソンバンジョーに多く付けられているのを見かけます。
このチューナーを作ったピットマンは、この時アールのネックのインレイをH&Fに戻して、ペグヘッドの修理もしたと言われています。(諸説あり)
このチューナーはF&SのDVD VOL.8 Flint Hill Specialで良くわかります。さらにアールは3回目のカムチューナーを付けます。1961年頃
こちらもWalter
Pittman製のオリジナルデザインで、これがのちにどんどん進化していきます。
しかし、この頃からアールはビルキースと親交があり、1964年以後アールは4本ともキースチューナーを付けました。
(Walter
Pittmanについて)
さっぱり正しい情報がないので、ネットに転がってる情報を適当に解釈して勝手に物語を作りましたので、事実かどうかは全く不明です。
1950年代ロスアンゼルス郊外のエルモンテという街で、重機オペレーターだったピットマンはそのおかげで首と背中に障害を負ったようです�Bそのせいもあってか元々手先が器用で、バンジョーが好きだった事を生かして楽器修理を始めます。とりわけ大ファンだったアールのバンジョーサウンドに魅了されていたようですが、彼もまたEarl’s Breakdownから始まるチューナーサウンドに取り憑かれていったようです。「あの箱の中は何が隠れているんだ!」と思ったかどうかは知りませんがアールのようなD-tunerを開発し始めます。1956年~1957年頃にアールとピットマンは出会います。その時ピットマンの作ったD-tuner(もちろんカムスタイル)にアールは感銘し「自分のものより数倍素晴らしい!」と絶賛したかどうかは知らんけど!とりあえずその頃にアールはピットマンにバンジョーを修理してもらってます。1949年にギブソンに修理に出して、勝手に変えてしまわれたボウタイインレイから、元々のハーツ&フラワーのインレイの指板に、ボロボロにしてしまったペグヘッドも多少修復して、さらにピットマン自作のカムチューナーをアールのバンジョーに装着したのです。それが前途の写真002です。まさにこれがのちのクルーソンチューナーの原型ですが、アールが教則本で作り方を公開しているものと基本アイデアは同じなので、パテント関係はがどうなっているんでしょうね?
その後もアールとピットマンはThe Beverly Hillbillies(じゃじゃ馬億万長者)の撮影でハリウッドを訪れる度に親交を深めていきます。1963年にアールはVEGAバンジョーと契約を結びアールスクラッグスモデルを発売させます。そのバンジョーについていたのがピットマンのカムチューナーでした。
左は1964年製、右は1968年製ベガアールスクラッグスモデル、68年にはピットマンが1957年に作ったとされるカムチューナーが純正装着、VEGA FACTORY MADEといわれる。
VEGAアールスクラッグスモデルの1964年モデルからはピットマンの57年作といわれているカムチューナーがつけられています。(beaconbanjo.comのstory参照)
これは権利を譲渡したのか、そもそも権利を所有していなかったのかは不明ですが、その�繧アのチューナーは VEGA FACTORY MADEなんて言われています。
1964年にアールがキースチューナーの株主になり、いわゆるキースチューナーはScruggs-Keith Pegと名前を変えました。そして、アールはその宣伝に携わったため、キースチューナーが普及し始め、ピットマンのカムチューナーは売れなくなったんでしょう。1965年頃のバンジョーについているのはネットで見かけますが、それ以後のピットマンの新型というのは不明で、ピットマンも歴史からその名前が消えていったのでした。
(その後のカムチューナー)
キースチューナーに席巻されたバンジョー界でしたが、やはりカムチューナーの使い心地に魅了されたバンジョー弾きはいなくなりません。それでもペグヘッドに穴を開けるのは躊躇するといった要望を実現したモデルが生まれましたが、それは邪道と考えますので紹介も割愛します。
やはり、穴を開けてなんぼのカムチューナー、そしてその崇高なピットマンの意思を継いで、2000年代からコピーモデルを作成した人がいます。Jim Burlile(ジム・バーライル)
この人もまた有名なトーンリングの製作者ですが、Pittman 1型のコピーを製造しました。
Burlile製のPittman1型のコピー、この構造は芸術品と言えます。
弱点はバーとズレ防止棒とのロウ付け部分が弱く耐久性に疑問が?
ペグヘッド上部のワーシャーが固定できず、下部のナットを強く締める必要があり、ペグヘッドに負担がかかる。
そしてそれはBurlile/Pittman tunerと呼ばれるに至ってます。
これ以外に現在手に入るものとしてGeorge Hopperさん製作のHopper D-Tunerがあります。
George Hopper製 Hopper
D-Tuner
(詳しくはBOMサービスまで)
参考までに左からPittman2型 Pittman3型 3型をGibsonに装着
2型からの改良点、調整ローレットナットを2個から1個に、これにより片手で調整可能に!また、両側で調整ネジの太さ支えるようになったので、スマートなシェイプを実現。
下部ナットがスタイリストに。まさにピットマン最高傑作、カムチューナーついてる方がカッコイイと言えます。
ここまで進化したのにキースチューナーに負けました。
カムチューナーのすすめ!! その2
Cam D-Tuner For Banjo
ムーンシャイナー誌2020年8月号掲載 完全版
(カムチューナーの構造)
色々なタイプのカムチューナーがありますが、大体は背面をみれば基本的にはバンジョーのペグのような形をしていますが、前面から見ると色々な形ものもがあります。それでもカムチューナーに絶対必要なものは以下のようなものかな? 尚、ペグとして当然ある、ペグボタンやシャフトについては説明しません。
1.弦に当たる部分(カムバー又はバーと呼びます。)
2.上下の音で止まる位置を決めるもの、スイング幅(ストッパーと呼びます。)
3.上下の音程をチューニングするもの、スイング半径(調整ネジと呼びます。)
4.調整ネジの回転、横ずれを抑制するもの(ズレ防止と呼びます。これはないものもある。)
上記のものが、色々なカムチューナーの個体別にどうなってるかを図解します。
1.クルーソンタイプ
このクルーソンタイプは、おそらくピットマンがプロトタイプを製造し、アールのバンジョーに2回目のカムチューナーとして装着されました。そしてその作り方はアールスクラッグスの教則本に記載されており、それをクルーソン社が具現化した量産モデルでは無いかと筆者は推理しています。このタイプはコピーモデルも存在し、一番世間に出回った型では無いでしょうか?
メリットは比較的単純な作りなので、アールスクラッグスの教則本の通りにすれば自作できるかもしれません。
また、(ストッパー)さえしかりしていれば調整も簡単で比較的使いやすいモデルと言えます。
問題はその(ストッパー)で、釘を上下2本ずつ直接ペグヘッドに打ち付ける必要があり、その上下位置の調整が難しいというデメリットもあります。
入手方法ですが、日本ではコピー商品の方が出回っていたので、比較的安価なバンジョーにも取り付けられているのをネットでは見かけますので、入手は可能かもしれません。
2.ピットマン Vega
Factory Model
1957年にピットマンが製作したと言われている(beaconbanjo.com The Storyより)このモデルは、クルーソン型では別々だった(ズレ防止)と(調整ネジ)(カムバー)を一体化させ、操作性の向上とその製造技術の精巧さから大変コンパクトな型に進化しました。筆者の知る中では最もスタイリッシュなモデルと言えます。また、(ストッパー)はワッシャーに内蔵され、不恰好な釘を打つ事からは解放されました。しかしながら、そのワッシャーの固定にビスを2本ペグヘッドに打つ必要があることと、その位置の調整の難しさは改善されていません。このタイプはVEGA Earl Scruggs Modelの1964年以降についています。入手方法はそれを買うのが一番簡単ですが、過去に一度ebayオークションで見たことがあります。
3.ピットマン1型(勝手に命名)
1961年にピットマンが製作したと言われている(beaconbanjo.com The Storyより)このモデルはアールのアイデアであるネジのダブルナット留めを応用したのか、前記のVega Factory Modelから(調整ネジ)をローレットナットで調整するように改良されています。また(ストッパー)はカム本体に内蔵となり、ワッシャー側にストッパーで止まる棒を追加しました。そしてチューナー本体をペグヘッドの裏表でナット留めできるようになりました。これによりカムシャフト用以外の不要な穴をペグヘッドに開ける必要がなくなりました。
難点はそのナットどめが緩んで、操作中に行きすぎるという経験をしました。また、繊細なロウ付けを施してあるんですけど耐久性に疑問が残ります。
入手方法はピットマンのオリジナルはかなり難しいと思います。しかし、前述の通りこのモデルはアールが3回目につけたカムチューナーであり、2000年代にJim Burlile(ジム・バーライル)がコピーを製造販売していました。なのでBurlile/Pittman tunerで検索するとネットでは結構出てきます。よって入手できるチャンスもあるかもしれません。
写真PIT1001.1002.1003.1004
4.ピットマン2型(勝手に命名)
実物を見たことがないので、写真での推測ですが、1型からの大きな変更点はカムバーとズレ防止を一体化したことで大幅に強度が上がりました。また1型でカム本体に内蔵した(ストッパー)は、Vega Factory Modelとは違う形で、ワッシャー内蔵に戻っています。
そもそもカムチューナーの使用感は軽くストーンと音が下がることです。そのためペグボタンを強く締めると回すことにストレスがかかってしまうんですが、ゆるくするとチューナー本体との安定感が崩れます。そこで、ペグボタンを緩めても安定感を出すために内蔵のゆるみ防止バネが追加されています。しかし1型よりカムバーの仕組みがシンプルになったのもの、それを1点で支えるため強度が必要になりシャフト部分が太くなりました。よって見た目がちょっと!って感じになってます。
機能的には進歩しているピットマンの仕事に間違い無いと筆者は考察しますが、ODEバンジョーのODE社製という表記もネットで見かけました。ピットマンが提携したのかな?
このモデルについては一度ebayで販売されているのを見かけましたが、それ以後は見かけません。かなり入手は難しいでしょう。
写真左より(ebay.com)より、(FRETS.COM Museum � Frank Ford, 11/7/01; Photos by FF, 2001)より、(https://reverb.com/)より
5.ピットマン3型(勝手に命名)
この型以降ピットマンのカムチューナーを見つけられないのでピットマン最終型と思われます。2型の問題点だったシャフトの太さを解消するためカムバーを支えるポイントを二箇所にし、その真ん中の1つのローレットナットを配置するというすごい発想の転換です。ローレットナット1つでちゃんと音が止まるのかと懸念していましたが、両側に支えがあることと、弦からのテンションで緩むことはありません。むしろローレットが1つになり、片手で操作できるメリットの方が大きいと言えます。大幅にコンパクトになった上に強度、操作性が上がるというピットマンの理想にまた1歩近づいたんじゃ無いかと思います。
その他に2型で(ストッパー)がワッシャー内蔵に戻ったのに、また3型は(ストッパー)がカム本体に内蔵になりました。そしてワッシャーのペグヘッド側に本体の回転防止用のポッチが追加されました。1型で「ナットどめが緩んで、操作中に行きすぎる」という難点が解消されました。ただしその位置決めはやはりかなり難しい上に、一度決めてしまうと修正できない木工作業を伴うようになりました。それさえキッチリできれば、その使い心地は筆者の使ったことのあるピットマン物のカムチューナーの中では最高です。
入手方法ですが、筆者はそれのついているバンジョーごと購入しました。それ以外に単体で販売されているのを見かけてことはありません。よってやはり入手困難と思われます。
左より、VFM、Pit1、Pit3
左より、クルーソン、VFM、Pit1
6.ホッパー
穴を開けるタイプのカムチーナーで唯一現在も手に入れることが可能なものがHopper D tunerです。ちょっとひょうきんなスタイルのチューナーですが、その機構は素晴らしく操作性も抜群です。ピットマンの作ったカムチューナーとは全く発想が違います。ピットマンは最後までストッパーの処理に苦労し、いずれの型もストッパーの上下スイング幅は固定で、スイング半径の違いだけで音程差をつけると言う構造でした。しかしホッパーはストッパーに調整ネジを内蔵し上下音をチューニングでき、スイング幅を変えることのできる機構を発案しています。ペグヘッドに開ける穴もシャフト分のみと非常にシンプルで、過去にカムチューナーがついていた穴はもれなく利用できます。その大きなカムで多少の傷も隠せます。筆者の知る限りその機能は史上最高のカムチューナーであると断言できますが、最大の欠点といえば、その見た目ですかね?
入手はBOMサービスにお問い合わせいただければ解決します。
これ以外にも穴を開けないタイプで
cheat-a-keys
https://store.banjobenclark.com/products/cheat-a-key-d-tuners-for-5-string-banjo
写真Cheat a
keys.jpg
The Mighty D-Tuner
https://www.themightyd-tuner.com/
写真The Mighty
D-Tuner.jpg
Sonny's Ugly D-Tuner
ソニーオズボーンの発案だそうです。
これについては、入手経路等はわかりませんので、レコキンさんのHPを参照してください。
写真Sonny's
Ugly D-Tuner.jpg
バンジョーおたくなパーツの部屋 その2
http://recokin104.web.fc2.com/banjo7.htm
ここにご紹介したい以外にもあると思います。
ここまでお付き合いいただいた方は、さぞカムチューナーが欲しくなっていることでしょう??
是非、色々探して見てください。
つづく・・・・・・はず!